資産形成はどこから始めるべきか?日本の金融商品で考える

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「そろそろ資産形成を始めたいけれど、何から手をつければいいのか分からない」。

このようなお悩みを抱えて、私の元へ相談に来られる方は少なくありません。
資産形成の第一歩で最も大切なのは、「どの金融商品を選ぶか」よりも「どういう考え方で資産と向き合うか」という土台を築くことです。

実は、金融の現場でお客様とお話ししていると、多くの方が陥りがちな“資産づくりの落とし穴”が見えてきます。
それは、目的やリスクに対する自分なりの基準がないまま、話題の商品に飛びついてしまうことです。

本記事では、証券会社の投資アドバイザーとして16年間、富裕層のお客様の資産形成に携わってきた私の実務経験から、これから資産形成を始める30代〜50代の方に向けて、リアルな視点をお届けします。

この記事を読み終える頃には、あなたは「自分にとっての資産形成の正解」を見つけるための、確かなコンパスを手に入れているはずです。

資産形成を始める前に知っておきたいこと

資産形成の目的と期間を明確にする

なぜ、あなたは資産を増やしたいのでしょうか。

漠然と「お金持ちになりたい」と考えるのではなく、具体的な目的を定めることが全てのスタートラインになります。

  • 目的の例
    • 20年後に子どもの大学資金として500万円準備したい
    • 30年後にゆとりある老後を送るため、3,000万円を目標にしたい
    • 10年後にマイホームの頭金として1,000万円貯めたい

目的が明確になれば、それに必要な期間と金額が見えてきます。
それこそが、あなたがどれくらいのリスクを取れるのか、どのような商品を選ぶべきかを判断する上で、最も重要な指針となるのです。

「貯蓄」と「投資」の違いを正しく理解する

次に、「貯蓄」と「投資」の違いを正しく理解しましょう。
この二つは、お金を将来のために準備するという点では同じですが、性質が全く異なります。

項目貯蓄投資
目的お金を安全に「蓄える」お金を働かせて「増やす」
主な手段銀行預金、タンス預金株式、投資信託、不動産
リスクほぼ無い(元本保証)元本割れの可能性がある
リターン非常に低い(金利)高いリターンが期待できる

現場では、「投資は怖いから貯金だけしていれば安心」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
しかし、現在の日本では、物価が上がり続けるインフレーションによって、お金の価値そのものが目減りしていくリスクも無視できません。

「守りの貯蓄」と「攻めの投資」、この両方の性質を理解し、バランス良く組み合わせることが、現代の資産形成の基本戦略と言えるでしょう。

金融リテラシー不足がもたらすリスクとは

金融リテラシー、つまり「お金に関する知識や判断力」が不足していると、思わぬ不利益を被ることがあります。

例えば、以下のようなリスクです。

  1. 機会損失のリスク:低金利時代に預金だけをしていると、インフレに資産が負けてしまい、実質的な価値が下がってしまう。
  2. 詐欺のリスク:「元本保証で月利5%」といった、あり得ない好条件の投資話に騙されてしまう。
  3. 非効率な運用のリスク:手数料の高い金融商品を、よく理解しないまま購入し続けてしまう。

金融知識は、もはや特別なものではありません。
自分の大切な資産を守り、育てるために不可欠な「生活の知恵」なのです。

日本の主要な金融商品の特徴と選び方

定期預金・個人向け国債:安全性を重視する選択肢

「何があっても、絶対に元本を減らしたくない」。
そう考える方にとっての最初の選択肢が、定期預金や個人向け国債です。

  • 定期預金:銀行に一定期間お金を預けることで、普通預金よりもわずかに高い金利が得られます。
  • 個人向け国債:国が発行する債券で、国が元本と利子の支払いを保証しているため、極めて安全性が高い金融商品です。特に「変動10年」タイプは、市場金利の上昇に合わせて受け取る利子が増える可能性があり、インフレ対策としても注目されています。

これらは、資産を大きく増やすことには向きませんが、生活防衛資金(万が一に備えるお金)や、数年以内に使う予定が決まっているお金を置いておく場所として非常に有効です。

投資信託・ETF:分散投資の基本形

「自分で株を選ぶのは難しいけれど、投資は始めてみたい」。
そんな方に最適なのが、投資信託やETF(上場投資信託)です。

これらは、いわば「金融商品の詰め合わせパック」です。
一つの商品に投資するだけで、国内外の何十、何百という企業の株式や債券に分散して投資できるため、リスクを抑える効果が期待できます。

投資の神様ウォーレン・バフェットも、「専門家でない投資家は、インデックスファンドに投資するのが最善だ」と語っています。

この数字の裏側にあるのは、プロでも市場平均に勝ち続けるのは難しいという事実です。
投資信託やETFを活用すれば、初心者でも簡単に「世界経済の成長」を自分の資産形成に取り込むことができるのです。

株式投資:成長を狙うがリスクも高い商品

企業のオーナーになる権利、それが株式です。
株価が上昇した時に売却して利益を得る「キャピタルゲイン」や、企業が稼いだ利益の一部を株主に還元する「配当金(インカムゲイン)」が主なリターンとなります。

応援したい企業や、成長が期待できる産業の株を保有することで、経済のダイナミズムを直接感じられるのが株式投資の魅力です。

ただし、企業の業績悪化や市場全体の冷え込みによって、株価が大きく下落し、投資した元本を割り込むリスクも常に伴います。
まずは少額から、そして自分の生活に影響のない範囲の余裕資金で始めることが鉄則です。

iDeCo・NISA制度を使った投資:税制優遇の活用法

日本で資産形成を行う上で、絶対に活用したいのがiDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)です。

通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、これらの制度を利用すると、その税金が免除されるという大きなメリットがあります。

  • iDeCo:老後資金作りに特化した制度。掛け金が全額所得控除になるため、年末調整や確定申告で所得税・住民税が還付されます。ただし、原則60歳まで引き出せません。
  • NISA:年間一定額までの投資で得た利益が非課税になります。iDeCoと違っていつでも引き出し可能なので、より自由度の高い資産形成が可能です。

この二つの制度は、国が「自分の力で資産を築いてください」と応援してくれているようなものです。
使わない手はありません。

初心者が最初に検討すべき資産形成戦略

毎月積立から始める「時間分散」の力

投資で成功するために、最も有効な戦略の一つが「ドルコスト平均法」です。
これは、毎月1万円、3万円といったように、決まった金額を定期的に買い付け続ける投資手法を指します。

この手法のメリットは以下の通りです。

  1. 高値掴みを防げる:価格が高い時には少なく、安い時には多く買うことになるため、平均購入単価を平準化できる。
  2. タイミングを計る必要がない:「いつ買うべきか」という難しい判断から解放される。
  3. 心理的な負担が少ない:相場が下がった時も「安く買えるチャンス」と捉えることができる。

この「時間を味方につける」という考え方こそ、投資初心者にとって最強の武器なのです。

ポートフォリオの組み方とバランスの考え方

ポートフォリオとは、あなたが保有する金融商品の組み合わせのことです。
卵を一つのカゴに盛ると、落とした時に全て割れてしまうかもしれませんが、複数のカゴに分けておけばリスクを分散できます。

資産形成も同じで、「日本株」「先進国株」「債券」「不動産」など、値動きの異なる資産を組み合わせることで、市場が急変した際の下落リスクを和らげることができます。

自分のリスク許容度に合わせて、安全資産(国債など)とリスク資産(株式など)の比率を決めることが、長期的に安定した資産形成を続けるコツです。

リスク許容度の測り方と商品選定の考え方

あなたがどれくらいのリスクを受け入れられるか、それが「リスク許容度」です。
これは、年齢、年収、家族構成、そして投資経験や性格によっても変わってきます。

一つの目安として、投資した資産が一時的に30%下落したと想像してみてください。
その時、「まあ、長期で考えれば戻るだろう」と冷静でいられるか、「不安で夜も眠れない」と感じるか。
後者であれば、あなたはリスクを取りすぎています。

もし市場が暴落したら、あなたはパニック売りをしてしまうだろうか? それとも買い増しのチャンスと捉えるだろうか? 自分の心に問いかけてみることが重要だ。

自分の心の声を無視して、背伸びした投資をしても長続きしません。
心地よく続けられる範囲で、最適な商品を選ぶことが大切です。

実際の相談事例:40代男性のケースから学ぶ

先日、40代の会社員Aさんが相談に来られました。
「年収800万円、妻と小学生の子どもが一人。貯金は1,500万円あるが、ほぼ全て普通預金に入れたまま。老後が不安で…」というご相談でした。

私からは、以下のようなステップをご提案しました。

  1. 生活防衛資金の確保:まず、万が一に備え、生活費の1年分(約400万円)はいつでも引き出せる普通預金や個人向け国債で確保する。
  2. iDeCoの満額拠出:老後資金作りと節税を兼ねて、iDeCoで全世界株式のインデックスファンドを毎月上限額まで積み立てる。
  3. 新NISAの活用:残りの余裕資金から、まずは「つみたて投資枠」で毎月5万円を同じく全世界株式ファンドへ。ボーナス時など、余裕がある時に「成長投資枠」で少しリスクを取った投資(例:米国のハイテク株ファンドなど)を検討する。
  4. ゴール設定の明確化:65歳時点で、夫婦でいくら資産があれば安心できるかをシミュレーションし、目標額を定める。

Aさんは、このプランによって「やるべきことが明確になった」と、とても安心したご様子でした。
このように、自分の状況を客観的に整理し、制度を上手く活用することが、着実な一歩に繋がります。

日本の制度改正と資産形成の未来

新NISA制度とその活用法

2024年から始まった新NISAは、日本の資産形成における「革命」とも言える制度です。
特に重要な変更点は以下の通りです。

  • 制度の恒久化:いつでも始められるようになった。
  • 非課税枠の拡大:生涯で最大1,800万円まで非課税で投資できる。
  • 売却枠の再利用:一度売却しても、その分の非課税枠が翌年以降に復活する。

これにより、子どもの教育資金、住宅購入、老後資金など、人生の様々な目的に合わせて、より柔軟な資産運用が可能になりました。
この国からの強力な追い風を、最大限に活用しない手はありません。

金融庁の方針と「貯蓄から投資へ」の流れ

日本政府は、長年にわたり「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げてきました。
これは、個人の資産を投資に回すことで、企業活動を活発化させ、日本経済全体の成長に繋げようという国家戦略です。

この大きな流れは、私のような現場の人間だけでなく、日興証券で長年の経験を積まれた長田雄次氏のような経営者の視点からも、日本の未来にとって不可欠な動きと捉えられています。

金融庁が2024年4月に「金融経済教育推進機構」を設立したのも、国民一人ひとりの金融リテラシーを高めることが急務であるという強い意志の表れです。
私たちは今、国を挙げて資産形成を後押しする時代に生きているのです。

日銀の金融政策が私たちの資産に与える影響

日本銀行の金融政策も、私たちの資産に密接に関わってきます。
例えば、日銀が金利を引き上げれば、以下のような影響が考えられます。

  • メリット:円の価値が上がりやすくなる。銀行預金の金利が上昇する可能性がある。
  • デメリット:企業の借入金利が上がり、株価にはマイナスに働くことがある。変動金利型の住宅ローン返済額が増加する。

金融政策のニュースは難しく感じられるかもしれませんが、「世の中のお金の流れがどう変わるのか」という視点で見ると、自分の資産を守り、育てるためのヒントが見つかります。

今後の市場動向をどう読むか(現場感を交えて)

現場でお客様と話していると、「結局、これからは何が上がるのか?」というご質問をよく受けます。
未来を正確に予測することは誰にもできませんが、私個人としては、いくつかの大きな潮流に注目しています。

一つは、世界的な人口増加と新興国の経済成長です。
短期的には様々な変動がありますが、長期的に見れば、世界経済は成長を続けていく可能性が高いと考えています。
だからこそ、全世界の株式に分散投資するインデックスファンドが、資産形成のコア(中核)として有効なのです。

もう一つは、日本の企業の「稼ぐ力」の変化です。
長年のデフレから脱却し、企業が株主への還元を意識し始めたことで、日本株市場への再評価が進む可能性もあります。

大切なのは、一つの情報に固執せず、様々なシナリオを想定しながら、自分のポートフォリオを定期的に見直していく姿勢です。

まとめ

資産形成の旅は、壮大な航海に似ています。
どこを目指すのかという「目的」を定め、自分だけの「海図(計画)」を描くことから全てが始まります。

この記事でお伝えしてきた要点を、最後にもう一度確認しましょう。

  1. 目的の明確化:「なぜお金を増やすのか」を具体的にすることが第一歩。
  2. 貯蓄と投資の理解:「守り」と「攻め」のバランスを取ることが重要。
  3. 制度の活用:iDeCoや新NISAという国の応援制度を最大限に利用する。
  4. 時間と分散:「毎月積立」で時間を味方につけ、「ポートフォリオ」でリスクを分散する。
  5. 自分を知る:自分のリスク許容度を超えた投資はしない。

金融商品選びは、あくまで目的地にたどり着くための「手段」に過ぎません。
最も重要なのは、あなた自身の目的と計画です。

ぜひ本記事でお伝えした現場の知見を活かし、情報に振り回されるのではなく、自分なりの判断力を持って、資産形成という素晴らしい航海へ漕ぎ出してください。
その一歩を踏み出すお手伝いができれば、これに勝る喜びはありません。

最終更新日 2025年7月2日 by chaco2